舞姫通信

2005年1月28日 和書
ISBN:4101349118
書籍形体:文庫
著者:重松 清
出版社:新潮社
出版年月:1999/03
価格:580円

初めは登場人物の言動に苛立ちを感じた。主題の「自殺」について考えれば考えるほど、小説の中で描かれる社会が嘘臭く思えて気持ち悪かった。偶像を造り上げて皆自分の思想をその偶像に託して生きている。周囲が過熱し、偶像の思想とかけ離れて次第に温度差が激しくなっても、それぞれが自分の想いを重ねて神格化していく。何を求めているのだろう。神格化するのは勝手だが、偶像の思想から生まれた思想を再び偶像に押し付けてはいけない。「こう述べるからにはこうしなくてはいけない」とは人に押し付けられない。ましてや生きるべきだとか死ぬべきだなんて。でも読んでいくうちに言動に対する違和感や苛立は消え、真剣に皆の思考をなぞってみたり、自分の考えを言葉にしてみたりと、夢中になっていた。 ある学校で少女が宙を舞うように飛び下り自殺をし、その時から不定期に舞姫通信が配られはじめた。舞姫通信を誰が書いているのか、誰がその意志を継いでいるのかは分からない。伝説化された舞姫のことを崇めたようなその通信は、決して死にたい生徒が書いていたわけではなかったと思う。
境界などなにもないのだ。ステアリングを右に回せば、車はあっけなく反対側の車線に飛び出していく。あの白いセンターラインは壁ではない。ただの、ペンキで塗られた線だ。約束ごとに過ぎないラインを踏み越えることは簡単で(以下略)

という箇所が印象に残った。そうだなぁ、約束ごとなんだよなぁって。上手く言えないし、別に上手く言う必要もないんだけど、死なないことだってそういう目に見えない事に約束されたものなのかなと思った。生物には、生まれたからには生を全うして、子孫を残していくことがインプットされてる。生まれたからには生きるって、ただの約束事なのかなぁと。それ以上の理由は人間だけが作り出したもので、本当はそれ以上の意味などなくてもいいのかもしれない。それ以上の理由は、プラスアルファであって、無駄なものなのかもしれない。ただし人間は‥というか私は、やっぱりどうしても無駄なものが好きなんだ。無駄なものが大事。自分と無駄なものの為に生きている‥のかな。そして自分の為に生きている他人と一緒に生きていく、って読み終わってから思ったけれど、ちゃんと整理されていないからいつにもまして文章が分かりにくい。 誰かの「死」や自分の中の「死の願望」を乗り越えて、でも常に死と共にある「生」に到達していく物語。テーマは自殺(というより「いつでも死ねる」かな)だけど小説からは強い「生」を感じた。

○舞姫通信
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