ユージニア

2005年2月14日 和書
ISBN:404873573X
出版形体:単行本
著者:恩田 陸
出版社:角川書店
出版年月:2005/02/03
価格:1785円

表紙を開く。表紙を開くと、遠い‥遠いと言っても距離ではなくて、心のどこかにあるのだけれどどこにあるのか、いつのことだったのか思い出せない記憶がひっそりと佇んでいる場所に引き込まれていきます。その場所はなぜか遠い遠い感じがするのです。どこか‥遠い場所で潮騒が聞こえました。背後の風景が自分の部屋ではなく海辺になってしまったようなそんな気がして、まるで頭の後ろで景色を見ているようでした。背後が潮騒とともに無限に広がっていく感覚です。表紙を開いたそこには、愛しいものを想って書き記した文章がありました。恋文なのか分かりません、ただ、ユージニアとは何、または誰だろうと頭に刻み込まれました。恋文なのか分からないけれど、とても穏やかな愛情を感じたのです。不思議ですね、本を読んだからそう思うのではなく、本当に潮騒が聞こえました。

そしてプロローグでは一変して恐怖を感じました。

一章ごとに登場人物が過去の事件を語っています。初めは誰に語っているのかは分かりませんが、過去のある時点を振り返りそれぞれがそれぞれの想いと記憶をもとに話をしています。そのうちの一章はその昔ある事件について書かれた本の引用だと思われます。とても懐かしい。でも振り返るのが恐いような気もします。徐々に浮かび上がってくる形を最後まで見届けても後悔しないのかと考えます。浮かび上がる真実は一つではありません。推理小説として読むとすれば、わりと早い段階で追うべき人間がはっきりとしますが、それはあまり重要ではないことです。追うものと追われるもの、想うものと想われるもの、水面をのぞいた鶴と水面に映し出された鶴…彼等の関係の根本にあるものが本当の真実なのでしょうね。

プロローグで感じた違和感と少女に感じた恐怖は私の中で青色と白色に置き換えられていました。青と白の話をしているのになぜしきりに赤が頭に浮かぶのだろうと不思議でした。

:余談:
プロローグでソーラ・バーチの映画「穴」を思い出しました。その映画と重なって、この少女はどちらなんだろうと無意識に思っていたのかもしれません。そしてなんとなく事件を思わせる赤を思い浮かべたのかなと思いました。
○ユージニア/恩田陸
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